夏に紫色の花を咲かせる西洋ニンジンボクやハマゴウ。
葉っぱの裏は白みがかかり、夏のむさ苦しさを吹き飛ばすように、爽やかで清々しい姿が大好きな植物の一つです。
我が家の庭でも地植えされた株が大きく育ち、夏の庭に涼しさを演出してくれています。
そんな西洋ニンジンボクやハマゴウ。
じつは同じ仲間だったんです。
今回はこの「シソ科ハマゴウ属」の植物5品種について、葉の形状や自生地域、ハーブとしての効能などの違いをまとめてみました。
シソ科には身近なハーブがたくさん
シソ科はシソ目に属する植物。
日本人に古くから馴染み深いシソ(紫蘇)のほか、ミント、バジル、ローズマリー、ラベンダー、セージ、オレガノ、タイム、レモンバーム等、いわゆる「ハーブ」とよばれる植物の多くがこのシソ科に属します。
これらシソ科植物は芳香性があるのが共通点ですが、アジュガやサルビア、ムラサキシキブなど非芳香性の品種も存在します。
また、シソ科の多くの植物には見た目にも共通点があります。
- 茎が四角い(断面が四角形)
- 葉が対生(茎の節に2まいの葉が向かい合ってつくこと)
- 花が合弁(花びらが一つにつながっている)で唇状をしている
※合弁:朝顔の花を思い浮かべるとわかりやすいと思います。
例外もありますが多くのシソ科植物を見た目で判断する上でわかりやすい特徴。
シソ科ハマゴウ属とは
さて、本題のハマゴウです。
本州の沿岸に広く自生するのがハマゴウ(浜香)。
和名のとおり葉や茎、種子に至るまで爽やかな香りが漂う日本のシソ科ハーブの一つ。
古来より身近に親しまれていた日本のハーブ「浜香」。
名前の由来は浜を這うように生育する姿から「ハマハウ」「ハマホウ」と呼ばれていたものが訛り、いつしか「ハマゴウ」と呼ばれるようになったという一説。
古くから枕には様々な素材形状のものが使われてきました。
植物繊維や種子を布に包むタイプの枕の素材として現在でも有名なのは蕎麦殻ですが、ハマゴウの種子には爽やかな香りがありよく眠れるということで、平安時代の貴族の間ではハマゴウの種子を使った枕が親しまれていたそうです。乾燥した種子はコルクのような多孔質形状のため、寝汗を吸湿し調整する効果も安眠へ一役かっていたのではないでしょうか。
ミントやユーカリの葉に似た香りのハマゴウは現在でも様々な用途で親しまれている身近なハーブ。
そんなハマゴウが属するのが、「シソ科ハマゴウ属」。 ※1
同属にはハマゴウのほか、ミツバハマゴウ、ニンジンボク、セイヨウニンジンボク、タイワンニンジンボクが存在します。
※1 現在主流となる植物分類体系のAPG体系では、ハマゴウ属はシソ科に分類されますが、旧体系であるクロンキスト体系や新エングラー体系では、クマツヅラ科 (Verbenaceae) に分類されていました。
ハマゴウとニンジンボクの違いと特徴
さて、このハマゴウ属の植物たち。
ハマゴウ属の見た目の大きな違いは、葉の形状。
単葉か掌状複葉(しょうじょうふくよう)かで以下の2類に分けられます。
ハマゴウ類は、単葉といって葉全体が1枚の葉からできています。
(ただし九州以南に自生するミツバハマゴウは小葉が3枚の葉から構成)
ニンジンボク類は、掌状複葉(しょうじょうふくよう)と呼ばれる葉の形状。
掌状複葉とは複数の小葉が集まり形成された葉の形状のことで、手のひらを広げたような形。
小葉は5枚とは限らず品種や個体によって違いがあるようです。
ハマゴウ類
ハマゴウ[Vitex rotundifolia]中国名:蔓荊
丸いという意味のrotundifolia。
その名の通り、丸い葉の形状をしています。
葉は単葉で淡い緑色をしていて、葉裏が白いのも特徴。
本州以南〜東南アジアに自生し、果実(種子)は蔓荊子/万荊子(まんけいし)と呼ばれる漢方として有名。
鎮痛・鎮静や消痰に効果があるといわれています。
ミツバハマゴウ[Vitex trifolia]
3枚の葉を意味するtrifolia。
ハマゴウ属ハマゴウ[Vitex rotundifolia]に似ていますが、葉の形状が三葉なのが大きな違い。
比較的暖かい地域の浜辺を好み、九州以南〜東南アジアに自生します。
効能はハマゴウと同様。
ニンジンボク類
ニンジンボク[Vitex negundo var. cannabifolia ]中国名:牡荊
チョウセイニンジン(朝鮮人参)の葉に似ていることから和名がつけられた、ニンジンボク。
ニンジンボク類3品種の中でも特にニンジンボク[Vitex negundo var. cannabifolia ]の葉はそっくり。ただし朝鮮人参と違い、こちらは草ではなく樹高3〜5mほどに成長する落葉低木。
またnegundo var. cannabifoliaの学名が表す通り、葉は麻に似ており細かい切れ込みが入る。
葉は淡い緑色。
中国本土に自生する。
セイヨウニンジンボク[Vitex agunus-castus]
和名セイヨウニンジンボクのとおり地中海地方に自生するニンジンボク。
別名チェストツリーと呼ばれ、その実をチェストベリーとして古くからヨーロッパで使われていたハーブです。チェストベリーは女性ホルモンのバランスを整える効果があり様々な婦人病に使われてきた歴史があります。ただし妊婦さんや子供、また経口避妊薬の効果を薄める作用があると言われているので服用時は摂取を控える必要がありそうです。
葉色は全体的に緑色。
形状は細葉なのが特徴。
個人的にはニンジンボクよりも麻の葉っぽい印象。
タイワンニンジンボク[Vitex negundo var. negundo]中国名:黄荆
出典:wikipedia
中国南部〜台湾〜東南アジア〜インド〜東アフリカまで広く自生する。
葉色は全体的に緑色。
形状はセイヨウニンジンボクと似ているが、小葉が幅広で丸みを帯びている点で違いがあります。
ニンジンボク、タイワンニンジンボクともに漢方として利用されていおり、風邪やマラリア、咳や喘息、腹痛など様々な療法に処方されるようです。
まとめ
様々な治療薬として昔から利用されてきたハマゴウ属の植物たち。
見た目の可愛らしさだけではなく、とても実用的な植物だったのですね。
我が家でもハマゴウやセイヨウニンジンボクを地植えしているのですが、夏になると薄紫色の清々しくて可愛らしい花を咲かせ目を楽しませてくれますし、剪定した茎や葉や室内に吊るすと爽やかな良い匂いを漂わせてくれます。
ハマゴウ属の植物は丈夫で育てやすいので庭木としてもおすすめですよ。