群馬県へ出かけた際、立ち寄った群馬県立館林美術館。
美術館というと、作品を鑑賞するために少し構えて入るようなイメージがありますが、ここにはそんな敷居の高さもなく、思いのほか気持ちのいい場所でした。
広い芝生に木々や遊歩道。
車を停めて公園を散歩するような感覚で歩いていると、自然に馴染むように美術館の建物が現れます。
建物もまた素敵で、モダンでスタイリッシュなのに、どこか柔らかい雰囲気。
この日は開館とほぼ同じ時間に到着したため、まだ人もほとんどいませんでした。
静かな庭を歩きながら、建物や景色をゆっくり眺める。
展示を見る前から、すっかりいい気分になっていました。

広大な芝生と、開放感のある庭

美術館の周囲には、広々とした芝生の庭が広がっています。
館林美術館は、多々良沼の北東に位置し、「自然と人間の関わり」を活動のテーマにした美術館。敷地は約7.5haあり、芝生や修景池、遊歩道なども含めて、周囲の風景と建物が一体となるように計画されているそうです。
実際に歩いてみると、建物だけが独立しているのではなく、庭の景色が少しずつ移り変わっていくのがいい。
美術館の敷地というより、大きな公園の一角に建物があるような感じですね。
気負わず歩いているうちに、いつの間にか美術館に入っていた。
そんな自然な距離感が印象的でした。
モダンだけど、どこか柔らかい建物

建物もとても素敵。
モダンでスタイリッシュなのですが、直線だけで構成された無機質な建物ではなく、ゆるやかな曲線が取り入れられていて、低く横に広がる姿も周囲の風景によく馴染んでいます。
本館の中央には大きなガラス面を持つ展示室があり、その周囲を弧を描くギャラリーがつないでいます。建物全体は外から見ると低く水平に伸びていて、平屋のよう。
ガラス張りの通路を歩いていても、外の景色が視界に入り、建物の中にいても庭とのつながりが感じられます。
大きな美術館なのに、あまり威圧感がありません。
「ここに入らなくちゃ」という感じではなく、庭を歩いている延長で、そのまま建物に入っていける心地よい感じです。
常設展示は動物彫刻家ポンポン

館林美術館のコレクションを語るうえで外せないのが、フランスの彫刻家フランソワ・ポンポン。
ポンポンの動物彫刻は、毛並みなどを細かく表現する写実的な動物彫刻とは違い、動物の姿をシンプルなフォルムへと整理しています。
動物の特徴を残しながら、余分なものをそぎ落とした造形。
そして、そのつるっとしたフォルムです。
デフォルメされた動物の体は表面も滑らかで、まるで磨き上げられたよう。
見ていると、なんだか触ってみたくなってしまうようなツルツル感があります。
もちろん美術館なので触ることはできませんが(笑)、丸みを帯びた背中やお腹、動物の体のラインを眺めているだけでも気持ちいい。
写実的に細部を描き込むのではなく、形をシンプルにしていくことで、かえって動物そのものの美しさが際立っているように感じました。
このシンプルなフォルムを眺めていると、ふと、実生活でも、もっとシンプルに物事を考えていいのかもしれないなと思いました。
一生懸命活動しているときには気が付かなかったけど、生活の細部は荒々しく尖っている部分があるのかもしれません。時々立ち止まって不要な部分を削り落として磨いてあげても良いのかもしれませんね。
あれこれ付け足して複雑にしてしまいがちなことも、余分なものをそぎ落としてみる。
ポンポンの作品を見ながら、そんなことを考えていました。
別館の「彫刻家のアトリエ」がまた良かった

本館から少し離れたところにある「彫刻家のアトリエ」も良かったです。
本館のモダンでシャープな雰囲気とは対照的に、こちらはフランス・ブルゴーニュ地方の農家をイメージした建物。
古材を使った梁や扉、石灰岩の外壁などが使われています。
入り口の重厚感のある木の扉。
木枠の窓。
そこから見える庭の木々。
こういうところが、なんともいい。
建物そのものを眺めているだけでも楽しくて、個人的にはかなり好きな場所でした。
中には、ポンポンが使っていた道具や家具、写真、手紙など、アトリエに由来する資料が展示されています。
1933年に撮影されたポンポンのアトリエの写真をもとに、オリジナル資料や模刻品、アンティーク品などを組み合わせて再現されています。
作品だけを見るのとは違って、実際に作家が過ごしていた場所を想像しながら見ることができました。
「チェコのおもちゃとデザイン」が面白かった

私たちが訪れたときに開催されていたのが、
「チェコのおもちゃとデザイン ―ニクロヴァーのプラスチック・トイから現代作家のアートまで―」
という企画展。
2026年7月18日から9月23日まで開催されていた展覧会です。
これもまた面白かったです。
中心となっていたのは、チェコの工業デザイナー、リブシェ・ニクロヴァー。
彼女が所属していた会社で手がけたおもちゃや製品を、時代の流れとともに見ることができました。
空気で膨らませるおもちゃをはじめ、色使いやフォルムがとにかくかわいい。
子ども向けのおもちゃなのですが、単にかわいいだけではなく、形そのものがよく考えられています。
丸みを帯びた動物の姿や、鮮やかな色。
古い時代のデザインなのに、今見てもあまり古さを感じません。
ネコのアコーディオン

ニクロヴァーの代表作のひとつが、1963年に発表された《ネコのアコーディオン》(製品名:Liba, the tomcat)です。
特徴的なのは、ネコの胴体に工業用の排水ホースなどに使われる蛇腹状のプラスチックチューブを使っていること。当時としてはかなり斬新な発想で、蛇腹を伸ばしたり縮めたりすることで、ネコの体を自由に動かせます。子どもの力でも簡単に、リアルでユーモラスなポーズを作り出せる仕組みです。
さらに、蛇腹の中の空気を利用して音が鳴る仕掛けもあります。縮めると「プー」、伸ばすと「キュー」。アコーディオンのように、空気の流れで音を出す仕組みを、そのままおもちゃに取り入れているのも面白いところです。

このおもちゃは分解された状態でも販売され、子どもたちが自分で組み立てて完成させるものでした。パーツは色付きの台紙に整理され、組み立てる時間も遊びの一部。ニクロヴァー自身がパッケージデザインも手がけており、完成したおもちゃで遊ぶだけでなく、構造を理解しながら自分の手で作り上げることにも、子どもの発想力や想像力を育てる意図が込められていました。
カヤック好きとして気になったインフレータブルボート

ニクロヴァーは1960年代から1980年にかけて、140点ものインフレータブル玩具をデザインしたそうです。
水遊びのおもちゃだけでなく、椅子のようなもの、跳ねて遊ぶもの、浮き輪など、さまざまな製品を手がけています。
動物をモチーフにしたものも多く、ぷくっと膨らんだフォルムがまたなんともかわいい。
それでいて、単なる玩具というより、ひとつのデザイン作品として成立しているように見える。
普段カヤックをしている自分としては、思いがけず興味のある展示に出会えました。
個人的に気になったのがインフレータブルボート。
ニクロヴァーは、1950年代にGUMOTEX(グモテックス)という会社でデザイナーとして働き、ゴム製のおもちゃなどを手がけていました。その後、Fatra(ファトラ)に移り、空気で膨らませる動物のおもちゃや、カヤックなどのレジャー用品もデザインしています。
GUMOTEXは、彼女がかつて在籍していた会社。
現在もインフレータブルボートを製造していて、カヤックやカヌー、ラフト、フィッシングボートなどを展開しています。
私は趣味でカヤックをするので、こういうものが展示されていると、どうしても目が行きます。
それにしても素敵なデザイン。
今でもこんなボートがあったら楽しいのに。
朝いちばんの館林美術館

今回は、開館とほぼ同じ時間に到着したため、まだ人もほとんどいなくて、広い芝生や建物を、かなりゆったりと見て歩くことができました。
館内だけではなく、外の庭も含めて楽しめる美術館なので、この静かな時間帯は特に気持ちよかったです。
芝生を歩いて、建物を眺めて、展示を見て、また外に出る。
美術館に来たというより、公園を散歩していたら、途中にいろいろな作品が置いてあったような感覚。
最初に感じた「ここ、なんか気持ちいいな」という感覚は、最後まで変わりませんでした。
ポンポンの彫刻を見て、シンプルに物事を考えることを少し思い出したり、チェコのおもちゃを見て、海遊びのことを考えたり。
群馬への旅の途中で、そんな時間を過ごしていました。

